東京地方裁判所 平成7年(ワ)13348号 判決 1997年6月09日
原告
竹石順介
被告
株式会社古川製作所
右代表者代表取締役
古川喬雄
右訴訟代理人弁護士
石口俊一
同
小川秀次
主文
一 原告の請求をいずれも棄却する。
二 訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
第一請求
一 被告は原告に対し、解雇を撤回し、原告が被告に対して雇用契約上の権利を有することを確認する。
二 被告は原告に対し、
1 平成七年六月以降、毎月の給与として毎月二八日限り、四〇万三四二〇円の割合による金員を支払え。
2 平成七年七月以降、賞与として年二回、上半期七月一五日限り、下半期一二月一五日限り、六六万二〇〇〇円の割合による金員を支払え。
3 平成六年二月以降、住宅手当として毎月二八日限り三万五〇〇〇円の割合による金員を支払え。
三 被告は原告に対し、本事件に伴って原告が被った損害賠償、慰籍料として二七〇五万円を支払え。
四 被告は、平成七年六月一日以降に遡及して、原告の健康保険、厚生年金、厚生年金基金、雇用保険の被告負担分として、毎月二八日限り、五万二〇二〇円の割合による金員を負担し、これに原告負担分を加え、必要な手続とともに、当局に納入し、原告の資格を取得し、継続加入を確認せよ。
五 訴訟費用は被告の負担とする。
六 第二項ないし第四項につき仮執行宣言
第二事案の概要
一 争いのない事実
1 原告と被告は、平成五年二月一日、期間を同日から平成六年一月三一日までとして、被告が原告を嘱託として雇用する旨の労働契約を締結し、被告は原告に対し、被告営業部東京営業課(以下「東京営業課」という。)勤務を命じた。
2 右労働契約は、平成六年二月一日、期間の定めのないものとして更新された。(但し、原告は同日付けで正社員になったと主張し、被告は嘱託のままであると主張する。)
3 被告は原告に対し、平成七年五月二二日、同月三一日付けで原告を解雇する旨の意思表示をし(以下「本件解雇」という。)、同年六月一日、同年五月二一日から同月三一日までの賃金八万六二二九円(手当を含み、社会保険料等を控除したもの)及び平均賃金三〇日分の予告手当三七万九三〇〇円(源泉所得税を控除したもの)の合計四六万五五二九円を支払った。
4 原告の基本給は三〇万九〇六〇円であり、賃金支払方法は、毎月二〇日締め、当月二八日払いであった。平成七年四月分の原告の賃金は、四〇万三四二〇円(手当を含み、社会保険料等を控除する前のもの)であった。平成六年一二月支給の原告の賞与は、六六万二〇〇〇円(社会保険料等の控除をする前のもの)であった。
二 主たる争点
本件解雇の有効性
(被告の主張)
以下のとおり、原告は、就業規則一七条四号(監督者の指示に従わず、職場秩序を乱したり、不都合な行為があったとき)及び五号(勤務が怠慢で技能や労働能率が著しく劣るとき)に該当したので、被告は原告を解雇したものである。
1 被告は原告を平成五年二月一日、「営業職職員(但し一年間の嘱託)」として採用し、右採用から一年経過した後、被告としては改めて正社員として採用する意向であったが、平成六年一月二八日、誤って嘱託社員用の労働契約書を送付してしまった。これに対し、原告は被告の岡田誠取締役総務部長(以下「岡田部長」という。)に対して右労働契約書についての質問状を提出してきたので、事務処理を誤ったことを伝え、同年六月二〇日、高井多賀男取締役営業部長(以下「高井部長」という。)から原告に正社員用の労働契約書を手交して、署名押捺のうえ被告に提出するよう話した。ところが、原告は同年七月五日付の質問状・意見書によって、「平社員では契約できない。営業部主幹(部長待遇)でなければ契約しない。そのことは末永宏昭専務取締役(以下「末永専務」という。)との約束である」と主張し始め、これ以降は前記労働契約書に署名押捺して提出することを拒否し、誓約書の文言にこだわったりしながら、執拗に部長職等のポジションを要求し続け、平成七年五月二二日の被告三原本社での話合いにおいてもその姿勢を変えず、労働契約書の提出もしなかった。
2 原告に期待された仕事の内容は、営業に関する情報収集や外訪活動(顧客訪問による営業活動)であったところ、実際には入社の際に原告が説明した勤務経験に見合うような営業成績、すなわち新規の顧客獲得につながるような情報収集や外訪活動をなさず、期待を大きく裏切るものであった。特に、平成六年七月以降は、「部長職にする約束が守られていない」とか「部長職にするのが当然だ、会社に誠意がない」などと公然と話すようになって、いわば意識的な怠業行為とも目されるような勤務態度となった。例えば、
(一) 独自での外訪活動は、毎月の営業日の半分程度しか外勤をせず、しかもその外勤中は殆ど一日に一社、三〇分から一時間程度の訪問時間でしかないという勤務ぶりで、これを注意しても「自分は他の者と違う」という姿勢で聞こうとせず、原告が自分の営業活動により獲得した顧客はほとんどない。
(二) 年齢的にも若い東京営業課員をバックアップすべき立場にもかかわらず、原告は相手の都合や時間を配慮することなく命令調で自分の考えどおりに行動して、他の課員とのトラブルを起こした。
(三) 営業課にかかってくる電話をとることが極端に少なかったり、決算棚卸し作業に協力せず、自己申告書を提出しない。
(四) 高井営業部長から市場調査等を指示しても、きわめて簡略な調査報告しかせず、さらに深い調査を求めると、「私の中身を全部出したら損するから報告しないだけだ」と業務命令に従わない。
(五) その他にも独断的に保証期間の延長をしたり、海外業務部の扱う海外向けの製品の価格を勝手に国内価格で答えてしまったりした。
(六) 原告は、本件訴訟における姿勢にも見られるように、自分の考えたことはすべて間違っていないという意識で、他の営業課員とはまったく妥協することなく、極めて協調性がとりにくい性格である。
以上のような原告の勤務態度・姿勢は、労働契約書を提出しないということに加えて、監督者の指示に従わず、職場秩序を乱したりして、社内において不都合な行為があったものと評価されるとともに、その勤務が意識的に怠慢であり、労働能率が著しく劣るものといわざるを得ない。
(原告の主張)
1 本件解雇は、原告が労働契約書の提出を拒否したとの理由によるものであるが、原告は労働契約書の提出を拒否していないし、拒否の意志(ママ)もない。また、労働契約書の未提出と雇用の継続とはなんら関係がない。労働契約書が未提出なのは、労働条件(地位や処遇)について、原告と被告が協議中であるからである。
原告は真面目に業務を遂行し、能力も発揮し、実績も上げていた。それゆえに、被告は、平成六年一月末で嘱託雇用契約を解約せず、その後営業部主幹を約束、内示している。在職中一度も能力がないとの指摘を受けていないし、業務内容についての明確な指摘、注意、警告を受けていない。解雇通告の際には、解雇の理由として労働契約書に署名を拒否したことしか挙げていない。
よって、本件解雇は解雇の理由がなく、解雇権の濫用であり、解雇は無効である。従って、原告は被告に対し、平成七年五月二一日以降分の給与、賞与(平成六年一二月の賞与実績額)、住宅手当(原告は平成六年二月一日以降正社員になったのに、同日以降も、正社員には支給されている住宅手当が支給されていなかった)の支払を求める。また、健康保険、厚生年金、厚生年金基金、雇用保険の被告負担分について、請求の四項のとおり請求する。
2 右のとおり本件解雇は無効であるから、原告は被告に対し、本件解雇によって生じた原告の経歴への損傷、名誉毀損及び人権無視並びに原告の本の出版に関わり原告の被った損害、雇用契約違反に対する損害賠償、慰謝料の支払いを求める。
第三争点に対する判断
一 解雇に至る経緯
争いのない事実及び証拠(<証拠・人証略>、弁論の全趣旨)によれば、次の事実が認められる。
1 被告は、真空包装機等の製造、販売等を業とする会社である。原告は、昭和一四年生まれであり、昭和三八年に帝人株式会社に就職した後、昭和四九年にカナダへ移住して数社に勤務したが、平成四年に日本に帰国し、同年七月に食品製造機械の輸入会社に就職した。原告は、右会社に勤務中、原告の出身地である広島県三原市に本部のある被告を知って、同年末ころ、被告の東京営業課に連絡をとって就職について打診し、被告の人事担当者や重役、社長等の面接を経て被告に採用された。被告は原告が海外勤務等の経歴を生かした営業活動をすることを期待し、右面接において、原告は社長室付きあるいは部長等の役職を希望していたが、とりあえず一年間は原告の能力や勤務ぶり等を見定めるために嘱託として採用することにし、被告は原告を平成五年二月一日、雇用期間は平成六年一月三一日までの一年間の嘱託として採用し、東京営業課に配属した。
2 右嘱託の期間中、原告は東京営業課の課員とともに営業や修理に出向いて、被告の販売している機械や顧客、営業方法等についての知識を得、また、顧客訪問等による情報収集をもとに今後の新規取引の見通し等について報告書を提出するなどした。被告は、右嘱託期間中の原告の勤務ぶりについて、右報告書の内容等がもの足りず、期待していた程ではないと評価していたが、右嘱託期間経過後は原告を正社員として雇用することにした。ところが、被告は、平成六年一月二八日、原告に対して嘱託社員用の労働契約書を送付してしまったため、同年二月八日、原告は岡田部長に、嘱託期間の一年経過後は正社員になる約束であったと理解しているので説明して欲しい旨の質問状を出した。これを見た岡田部長は誤りを認め、同月一四日、女性事務員が間違って嘱託社員用の労働契約書を送付したので、後日正社員用の労働契約書を送付すると電話で返答し、同年六月二〇日、高井部長が原告に対し、正社員用の労働契約書を手交し、署名捺印のうえ提出するように伝えるとともに、原告に役職はなく平社員であると告げた。原告は、同年七月五日ころ岡田部長に対し、「労働契約書と平社員であることはセットになっているのか。同年五月二六日に末永専務から営業部主幹にするという話があり、原告もこれを了承し、高井部長から内示もあった。役職につけるのが当然だ。」との質問状・意見書を出して労働契約書を提出せず、その後も原告は、「入社時に部長待遇との約束があり、平成六年五月には末永専務から営業部主幹(部長待遇)と内示されているから、平社員では納得できない。労働契約書を提出すると、平社員であることを了承したととられるおそれがあるから、労働契約書の提出はしない。」と主張し、労働契約書を提出せず、執拗に部長あるいは営業部主幹等の役職を要求し続けた。
3 被告の東京営業課の業務内容は、被告が製造している機械の販売、試運転、修理、アフターサービス等で、営業課員は、試運転や修理の技術を有し、販売後のアフターサービス、メンテナンス等を通じて担当顧客を得るとともに、担当顧客からの情報収集や顧客訪問等の営業活動をしていた。原告は、右のような技術や担当顧客を有しておらず、その経歴や入社の経緯からしても、原告に期待されていた仕事は、他の営業課員とは異なり、これまで取引のなかった会社を訪問する等により情報を収集し、新規の顧客を獲得することであり、原告もこのことを自覚し、前記のとおり、嘱託期間中にはこのような活動をして報告書を作成するなどしていた。しかし、高井部長から平社員であると告げられたころからは、自分はいわゆる売り子として雇用されたわけではないから他の営業課員とは異なるし、他方、役職につけず平社員にしかしないというならそれだけの仕事しかできないなどと主張して、その仕事ぶりが不熱心になり、顧客訪問の件数が減少し、二~三日に一回、一社を三〇分から一時間訪問する程度になった。そして、その内容も、原告の直接の上司である西條政俊課長(以下「西條課長」という。)が東京営業課に引き合いのあった案件を原告に割り当てたものや、西條課長等と一緒に外訪したものが多く、原告独自の営業活動は少なかった。原告は、右程度の顧客訪問活動をしたり、外交日誌や書類等を作成する以外の時間は、営業所内において業務に関連する本を読むなどして過ごしており、半日以上も仕事らしい仕事をしていないことがあった。高井部長は営業課員全員に対し、もっと顧客訪問活動を増やすように再三指示していたが、原告の勤務状況に変化はなかった。また、高井部長が原告に大田青果市場の調査を指示しても、原告は簡略な調査報告しかせず、さらに詳しい調査を求めると、「自分の知っていることを全部出したら損するから報告しないのだ」と言って従わなかった。
4 東京営業課では、かかってきた電話は営業員は誰でもすぐにとって顧客の用件を聞き、担当者に回すことになっていたが、原告は電話をとることが少なかった。また、被告では毎年七月末と一月末の年二回決算棚卸しをしており、これは営業課員全員で行っていたが、原告は、自分は修理をしないので修理部品を所持していないからといって協力せず、平成七年一月の棚卸しの際に、西條課長が手伝うように指示しても、集計結果表を数枚清書したにとどまった。
5 原告は、試運転、修理等の技術がなかったから、原告が契約した案件について機械を納入する場合、試運転ができる営業課員を同行する必要があったが、原告は、若い営業課員の都合を配慮することなく勝手に納入日時を決めて命令調で同行を指示するなど自分中心に行動するため、課員が反発し、西條課長に不満を漏らすものもいた。また、被告においては、海外のユーザーからの引き合いは基本的に三原本部にある海外業務部に引き継ぐことになっていたが、原告は海外事業(ママ)部に引き継ぐことなく現地代理店と直接交渉してしまったり、また、海外向け商品は仕様変更の必要等諸々の理由から国内向け商品より価格が高かったが、原告は海外のユーザーからの引き合いに対して勝手に国内価格を教えてしまうなど、被告の内部ルールに反することがあった。他にも、原告は、他企業に比して被告の保証期間が短いとしてその延長を要求したり、海外向け商品価格が高すぎるとクレームをつけるなど、自分が正しいと思ったことは、強引に主張し、独断的な行動に出ることがあった。もともと、原告は、自分の考えを執拗かつ強引に主張する傾向があり、他の営業課員との協調性に欠けていた。
6 原告が労働契約書を提出せず、その勤務態度が右のようなものであったことから、同年(ママ)九月八日には岡田部長が上京して原告に対し、「高井部長を補佐してもっと情報を収集するように。営業日誌を見ると、仕事ぶりがもの足りない。部長や部長待遇にすることはできない。謙虚な気持ちで仕事をして欲しい。」などと話したが、原告は、従前の主張を繰り返し、被告に誠意がないとなじり、原告に平社員と言った高井部長の元では働けないなどと言い、あくまでも営業部主幹あるいは部長職につけるように要求するばかりで勤務態度を変えようとはしなかった。
7 右話合後も原告の勤務態度は変わらず、労働契約書の提出もなく、さらに原告は、平成七年二月に提出すべき自己申告書も提出しなかったので、被告は三原本部において原告を説得することに決め、同年五月二二日に原告を三原本部に呼び出し、岡田部長が原告と会ってその仕事ぶりについて話をしようとしたが、原告は前年七月の質問状・意見書に対する回答がなく、被告に誠意がない等従前の主張を繰り返したので、岡田部長はこれ以上話をしても、原告の勤務態度に変更はなく、部長にしない限り労働契約書を提出する意志(ママ)はないものと判断し、末永専務と相談のうえ、本件解雇を通告した。その際、岡田部長は原告に対し、労働契約書を提出しないことが解雇の理由であると述べ、後日交付した雇用保険被保険者離職票にも解雇理由として「労働契約書の提出を拒否したため」と記載した。
右認定に反する原告作成の陳述書(<証拠略>)及び原告本人尋問の結果は、前掲各証拠に照らして信用できない。
二 正社員か嘱託社員かについて
右一認定事実によれば、当初の一年間の嘱託期間は、原告の能力や勤務ぶり等を見定め、正社員にするかどうかを判断するための試用期間的意味合いであったということができ、被告は右嘱託期間経過後原告を正社員として雇用することに決め、平成六年二月ころには、嘱託期間経過後は正社員になる約束ではないかとの原告の質問に対し、正社員として雇用する旨答えているのであるから、原告・被告は、嘱託期間が満了した同年二月一日から原告が正社員になることについて合意したものと認められる。
被告は、原告が正社員用の労働契約書に署名捺印することを拒否し、労働契約を締結しなかったので、嘱託として雇用する旨の労働契約が更新されたままである旨主張するが、正社員としての雇用に労働契約書の提出が必要ならば、右合意成立後すみやかに労働契約書を原告に渡すべきであるにもかかわらず、被告が原告に対し正社員用の労働契約書を手交したのは嘱託期間が満了してから四ヶ月余りも経過した後であるし、右のとおり既に合意が成立しているところ、その後原告が労働契約書を提出しなかったのは、役職につけてもらえないことが不満であったためで、正社員になることそのものを拒否したわけではないから、労働契約書を提出しない限り正社員ではないというのは被告の一方的な取扱いにすぎないというべきであり、被告の右主張は採用できない。
但し、正社員に住宅手当が支給されていると認めるに足りる証拠はないから、平成六年二月一日以降の住宅手当の支払を求める原告の請求は理由がない。
三 解雇の有効性について
前記一認定事実によれば、原告は平成六年六月に、高井部長から役職はなく平社員であると告げられて強く反発し、部長あるいは営業部主幹との約束であったからこれらの役職につけるようにと執拗に要求し、自分はいわゆる売り子として雇用されたわけではないから他の営業課員とは異なるし、他方、役職につけず平社員にしかしないというならそれだけの仕事しかできないなどと主張して、期待されている職責を積極的に果たそうとせず、勤務状況が劣るようになり、また、自己の主張に固執して独断的な行動が多く協調性に欠けていて、同年九月及び平成七年五月二二日の話し合いにおいても、岡田部長に対して、従前の主張を繰り返し、あくまで部長職を要求し、勤務態度を改めようとの姿勢がまったく見られなかったのであるから、本件解雇は客観的に相当な理由があり、権利の濫用にあたらず、有効であるというべきである。
原告は、本件解雇の理由は労働契約書の未提出であり、原告が右契約書を提出しなかったことについては正当な理由があると主張する。確かに、本件解雇時に被告が原告に告知した解雇理由及び雇用保険被保険者離職票記載の解雇理由は、「労働契約書の提出を拒否したため」というものであるが、前記一認定事実によれば、労働契約書の提出拒否は、平社員に納得できず、役職につけない限り勤務状況を改めるつもりはないとの原告の意志(ママ)を象徴する行為であったため、被告は労働契約書の提出拒否を特に取りあげて、解雇理由としたものであって、単に労働契約書の形式的な未提出のみを理由に本件解雇をしたわけではないことが認められる。また、原告は、被告は原告に対し部長あるいは営業部主幹にするとの約束ないし内示を履行しない理由について納得のいく説明をしておらず、原告と被告は原告の役職について協議中であると主張する。しかし、右約束ないし内示があった旨の証拠(<証拠略>、原告本人尋問の結果)は、(証拠・人証略)に照らして信用できず、他にこれを認めるに足りる証拠はない。また、従業員を役職につけるかどうかは被告の人事権に属し、その裁量的判断が尊重される事項であり、被告が原告の勤務ぶりをみたうえで、原告を役職につけないと明言しているにもかかわらず、納得できないとの理由であくまでも役職を要求し労働契約書を提出しないことは、労働契約書未提出の正当な理由とはいえない。
なお、原告は真面目に業務を遂行し、能力を発揮し、実績を上げていたと主張し、(証拠略)を提出するが、前記一認定事実及び証拠(<証拠・人証略>、弁論の全趣旨)によれば、原告は他の営業課員らと異なり修理等の技術を有さず、修理業務等には従事していないのでその分時間的余裕があり、原告の経歴及び入社経緯からしても、他の営業課員に比して、新規顧客等を積極的に訪問することが期待されていたことや、原告が自分の営業活動により獲得したと主張する(証拠略)記載の取引先には、東京営業課に引き合いのあった案件を西條課長が原告に割り当てたものや従前からの取引先、西條課長らも顧客に応対したものも含まれていることが認められ、これに、前記一認定事実を総合して判断すると、(証拠略)をもって、原告が真面目に業務を遂行し、能力を発揮し、実績を上げていたと認めることはできない。
四 結論
以上のとおりであるから、本件解雇の無効を前提とする原告の請求は、その余の点を判断するまでもなく、理由がない。よって、原告の請求はいずれも棄却することとし、主文のとおり判決する。
(裁判官 白石史子)